まず8020運動について、お話しさせていただきます。愛知県歯科医師会において始まった運動が全国に広がりました。これが提唱される前には、「一生自分の歯で食べよう」という標語がよく使われていましたが、「8020」はこれを「数値目標化」したものです。
まず左上のグラフですが、この運動が開始された当初、8020達成者は10人に1人にも満たない状況でした。しかしその後の達成者の割合は増加し、平成23年には37%に達しました。今後も増加することが予測されています。 しかし高齢者人口は増え続けているので、「8020」に達していない高齢者の絶対数も増えています。高齢者の歯の状態は良くなりつつありますが、右下のグラフの様にまだまだ困っている人が多いのが実状なのです。
次に年齢階級別の平均現在歯数の推移について、見てみましょう。昭和62年からの調査ではありますが、各年齢階級別に確実に増加傾向にあります。特に65歳以上の増加が顕著なのでそこを詳しく見てみましょう。70歳から74歳が9本程度と最も増加しています。これが先ほどの8020が3人に1人につながっています。
今度は年齢階級別に歯周病の罹患率の推移について見てみましょう。平成11年からこれも6年おきに3回の調査結果です。概ね60歳ぐらいまでは減少傾向がみられます。しかし高齢者の歯周病罹患率が増加しているので、そこを詳しく見てみましょう。75歳以上の全年齢層において平成11年と23年を比較すると36.8%ぐらいから49%と歯周病罹患率は15から25%ぐらいの増加が見られます。これは前のグラフの平均歯数の増加に伴い、以前は抜けてしまっていた歯が現在は機能していることによって、その歯が歯周病に罹患しているということです。
では何が原因で歯を抜くに至ったのでしょう。40代までは虫歯による原因約半数と多いのですが、50代からは歯周病によるものが逆に50%以上と多くなります。また高齢者で、虫歯による原因が30%近くあるのは、唾液の分泌量の減少に伴い、根面カリエスと言って、根っこが、虫歯になりやすくなることによります。
歯周病は歯茎が腫れたり、歯がグラグラになったりする病気で、ほおっておくと歯が抜け落ちて無くなってしまう病気です。自分でも気づかないうちにかかっていることが多く、30代の80%以上が歯周病だと言われています。
1.では健康な歯茎が歯周病にかかっていく様子を見てみましょう。
歯と歯茎の境目には、深さが1〜2ミリの歯肉溝という溝があります
お口の中を不潔にしていると、歯肉溝にプラークがたまります。プラークは虫歯菌や歯周病菌などの細菌の塊です。不潔な状態が続くと、プラークがどんどん増え歯石も出来てきます。
プラークによって、歯茎に炎症が起き、歯肉が赤く腫れます。
これが歯周病の始まりの歯肉炎です。
歯周病は静かに進行する病気です。歯肉炎を放っておくと、知らないうちに、歯茎の内部にまで炎症が広がり、歯と歯茎のつなぎ目や歯を支えている骨が、破壊されて歯周炎になります。
歯肉炎と歯周炎を合わせて歯周病と呼んでいます。
2.次に歯周病はどのようにして引き起こされるのでしょうか?
これも少し詳しく見てみましょう。
プラークの中で歯周病菌がどんどん繁殖して勢力が強まると歯周病菌は歯肉の中にも侵入してきます。すると歯肉に炎症が起き、赤く腫れます。
私たちの体の免疫力により、血管から白血球の仲間が出てきて歯周病菌と戦います。
そして歯肉はますます赤く腫れ、歯肉を作っているコラーゲン組織も破壊されます。
さらに破骨細胞という骨を破壊吸収する細胞が現れ、歯を支えている周りの骨をも破壊します。
このようにして歯周病によって、歯茎が腫れたり、歯がぐらついたりするのです。これが歯周病の発症のメカニズムです。
3.では歯周病を放っておいたらどうなるのでしょう。
歯周病が進むと、歯の周りの組織が破壊され、歯を支えられなくなり、歯が抜け落ちてしまいます。
ではその様子を見ていきましょう。お口の中を不潔にしていると、歯と歯肉の境目の歯肉溝に先ほどお話ししたように、プラークや歯石がたまり、炎症がが起きると、歯肉が赤く腫れます。これが歯周病の始まりの歯肉炎です。
歯肉が腫れて、深くなった、歯肉溝を、歯肉ポケットと呼びます。さらに不潔にしていると、、プラークがどんどん溜まって歯周病菌の勢いが強くなり、歯を支えている骨が、破壊されだします。歯と歯茎のつなぎ目も破壊され、ポケットが下に向かって深くなり、歯肉ポケットが、歯周ポケットになります。これが歯周炎で、歯肉炎と歯周炎を合わせて歯周病と呼びます。
軽度歯周炎
中等度歯周炎
だんだんポケットが深くなり、骨も破壊されていきます。重度歯周炎へと進んでいきます。
それでも放っておくと歯を支えている骨がすっかり破壊され歯がグラグラになり、ついには抜けてしまうのです。
歯周病は、プラークの中の歯周病菌が、歯茎に感染して起こる病気です。つまり歯周病は、細菌による感染症、なのですが、歯周病が発症するには、その他にも様々な要因が、絡んでいます。その要因のことをリスクファクターと言います。
お口の中にある、歯周病のリスクファクターとしては、
1、歯並びが悪い
2、歯ぎしりをする
3、噛み合わせの異常や癖がある
4、唾液の出が悪い
5、口で呼吸をする
6、口の中を不潔にしている
などがあります。
さらに、歯周病には、全身的な、リスクファクターが、関係します。
糖尿病などの、全身的な病気がある場合、歯周病を、悪化させることがあります。
女性の場合、女性ホルモンの影響で、思秋期や妊娠時に、歯肉に炎症が、起きやすくなります。
また歯周病の発症には、タバコ、食事の習慣、不摂生な生活、ストレスなど、日頃の生活習慣が絡んできます。特に喫煙が最大のリスクファクタです。
歯周病は、感染症あると、同時に生活習慣病、でもあるのです。
予防歯科が進んでいるスウェーデンでは、定期検診の受診率は全国民の80%以上です。また、他の欧米諸国でも70%ほどの受診率を保っています。これに対して、日本の受診率は10%です。
左のグラフは年齢別の残存歯数ですが、20歳代から定期検診を受診してきた人と、問題のある時だけ受診した人の、50歳での歯の本数は定期検診をしてきた人が、問題のある時だけ受診した人の約1.5倍、60歳で約2倍、70歳で5倍以上も広がることがわかっています。
歯周病は生活習慣病ですのでいったん治療が終了しても、ちょっとした油断で再発し、再治療が必要になってしまいます。問題が起こってから歯科医院を受診するのではなく、問題が起こらないように歯科医院を利用しましょう。
歯周治療の終了はゴールではなく、一生自分の歯で噛むための、メインテナンスのスタート地点です。